会社設立の際には、「税理士」と「行政書士」それぞれに依頼する場面がありますが、実はこの2者には役割の違いがあります。うまく使い分け、必要なタイミングで的確に相談・依頼することで、設立準備がスムーズに進み、後々のトラブルやロスも回避できます。
ここでは、税理士と行政書士に会社設立を頼むときの違い、活用するコツ、具体的な進め方を長文で丁寧に解説します。
【1. 税理士と行政書士、それぞれの役割の違い】
まず、会社設立における基本的な役割分担を理解しておきましょう。
種類 | 主な業務 | 会社設立との関係 |
---|---|---|
行政書士 | 定款の作成・認証、公的書類の作成、許認可申請など | 設立登記前の定款作成・電子認証が得意 |
税理士 | 税務署などへの開業届出書、税務相談、会計設計など | 設立後の税務処理・節税対策・資金繰りまで対応可能 |
つまり、会社を“作る”段階では行政書士が中心的に動き、その後の“運営”には税理士が不可欠になります。ただし、最近は「設立から税務まで一括対応可能」としている事務所も増えており、税理士が行政書士と提携しているケースも多いです。
【2. 行政書士に会社設立を依頼するコツと方法】
● コツ①:会社設立の「目的・形態・業種」を明確に伝える
行政書士は、定款作成のプロですが、依頼者の意向を正確に反映するためには、あなたがどんなビジネスを始めるのか、法人形態(株式会社、合同会社など)、資本金、所在地、事業内容などを正確に伝える必要があります。
とくに許認可が必要な業種(介護事業、建設業、医療、福祉、飲食業など)は、定款の文言があいまいだと、後で認可が取れなくなるリスクもあるため注意が必要です。
▼準備しておきたい項目例:
- 会社名(商号)
- 本店所在地
- 資本金額
- 発起人・役員の氏名と住所
- 事業目的(箇条書きでなるべく網羅的に)
- 決算月
● コツ②:電子定款に対応しているかを確認する
定款は紙で作成すると4万円の印紙代がかかりますが、電子定款であれば印紙代が不要になり、大きな節約になります。
行政書士が電子定款に対応していれば、実質4万円の節約になりますので、依頼前に必ず確認しましょう。
● コツ③:必要に応じて「許認可申請」までお願いする
もしあなたの業種が行政上の許認可が必要な場合(例:介護事業、障がい福祉、建設業、風俗営業など)、設立後すぐに申請手続きが必要になるケースも多いです。行政書士はこれらの申請代行が可能な国家資格者なので、設立と同時に「許認可までまとめてサポートできるか」確認しておくと、手続きの流れがスムーズになります。
【3. 税理士に会社設立を依頼するコツと方法】
● コツ①:設立「後」のことまで相談する姿勢で依頼する
税理士は、法人設立後の「開業届」や「法人設立届出書」、「青色申告の承認申請書」などの書類を、税務署・県税事務所・市町村役場に提出する役割を担います。
また、設立後すぐに「会計の初期設計」や「節税対策」「融資相談」などを進める必要があるため、会社設立の相談時には「設立後のことまで見据えて相談できる税理士」が望ましいです。
● コツ②:会計ソフトや帳簿の設計も相談する
法人を立ち上げると、経費・売上の記帳や帳簿の保管が義務になります。そこで、税理士に「どの会計ソフトを使えばいいか?」「記帳代行もお願いできるか?」「自分でやるべき部分はどこか?」を早めに相談しましょう。
最近は会計業務をクラウド化するケースも増えており、freee、マネーフォワード、弥生会計などに強い税理士を選べば、業務効率化も図れます。
● コツ③:資金繰りや融資も相談に乗ってくれるか確認する
会社設立直後は、資金的な余裕がない場合も多いものです。日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資などを検討する際、税理士は「事業計画書」や「収支見込み表」の作成をサポートできます。
実績ある税理士は、融資実行率も高くなるため、設立前後の資金調達にも強いかどうかを確認しておくと安心です。
【4. ワンストップで依頼できる事務所を選ぶのも◎】
行政書士と税理士を別々に探す方法もありますが、最近では両方の業務をワンストップで提供している事務所も多くあります。
たとえば、行政書士が定款と登記を担当し、税理士が税務届出や資金計画を担当するという分業体制で、内部的に連携しているパターンです。
このような事務所を利用すれば、連絡が一本化され、ミスや書類の二重作成が避けられるため、時間とコストの両方を削減できます。
【まとめ】
会社設立をスムーズかつ確実に行うためには、**行政書士には「作るための手続き」、税理士には「運営するための土台作り」**をサポートしてもらうのが鉄則です。
- 行政書士には:定款・登記・許認可を相談し、電子定款や業種対応を確認する
- 税理士には:設立後の税務・会計・節税・資金調達まで含めて相談する
- できれば、ワンストップで対応できる事務所に依頼すると手間が省ける
会社設立を自分でする方法
会社設立を自分で行う方法は、法律上まったく問題なく、しっかり手順を踏めば誰でも可能です。専門家に依頼するより費用を抑えることができ、自分自身で法人化の流れを理解できるというメリットもあります。
ここでは、株式会社を例に、会社設立を自分で行う手順と注意点、実務のコツまでを長文で丁寧に解説します。これを読めば、設立の流れがイメージでき、実際の行動に移しやすくなるはずです。
【1. 会社設立の流れ:全体像】
まず、会社設立の手順は以下のようになります。
✅ 設立の基本的な流れ(株式会社の場合)
- 会社の基本事項を決める(商号・目的・本店所在地など)
- 定款を作成する
- 定款の認証を受ける(公証役場にて)
- 資本金の払込を行う(発起人の口座へ入金)
- 登記書類を作成する
- 法務局へ登記申請を行う
- 税務署・市区町村・年金事務所などに各種届出を行う
【2. 各ステップの詳細と実務のコツ】
◆ ステップ①:会社の基本事項を決める
ここでは、会社の「設計図」を作る段階です。決めることは以下の通り:
- 商号(会社名)
- 本店所在地(自宅やレンタルオフィスでもOK)
- 事業目的(できるだけ網羅的に。許認可のある業種は特に注意)
- 資本金(1円でも可能だが、実務上は10万円以上を推奨)
- 発起人と取締役の情報(氏名・住所・生年月日など)
- 決算期(月末日。3月末や12月末が多い)
**コツ:事業目的は“今やっていないこと”も入れておくと、後々事業拡大がスムーズです。**例えば、「IT事業」「飲食業」「物販」「福祉事業」など複数入れておきましょう。
◆ ステップ②:定款を作成する
定款とは、会社の“憲法”のようなもので、会社のルールや組織構成を記載した書類です。
Wordなどで自作可能です。以下の情報を含めて作成します:
- 商号(会社名)
- 目的(事業内容)
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額
- 発起人の氏名・住所
- 機関設計(取締役会の有無、任期など)
コツ:法務省や商工会議所が公開している「定款ひな形」を参考にすれば簡単です。
◆ ステップ③:定款を公証役場で認証してもらう
定款ができたら、公証人による認証が必要です(株式会社の場合のみ)。
※合同会社は不要。
● 電子定款認証を活用しよう(印紙代4万円が節約可能)
紙の定款だと収入印紙4万円が必要ですが、電子定款(PDFで提出)なら不要です。
自分でやる場合、以下のソフトが必要になります:
- Adobe Acrobat(有料版)
- 電子証明書(マイナンバーカードなど)
- 電子署名ソフト(登記ねっとの「署名ソフト」など)
ややハードルは高いので、「電子定款だけは行政書士に依頼して、それ以外は自分でやる」というハイブリッド方式もおすすめです(実費+1〜2万円程度で依頼可能)。
◆ ステップ④:資本金を振り込む
定款認証後、発起人個人の銀行口座に資本金を振込ます。
ネットバンキングでOK。振込明細や通帳コピーは後で登記書類として提出します。
コツ:銀行名義が「発起人本人名義」であること。法人名義口座ではまだ振り込めません。
◆ ステップ⑤:登記書類を作成する
以下の書類を準備します:
- 登記申請書(法務局の様式を使用)
- 登記すべき事項(CDまたはUSBで提出)
- 払込証明書(通帳のコピーなど)
- 発起人決定書
- 取締役就任承諾書
- 印鑑届出書(会社印を登録する書類)
- 定款(認証済のもの)
◆ ステップ⑥:法務局に登記申請を行う
書類一式をそろえたら、会社の本店所在地を管轄する法務局に登記申請します。
窓口持参・郵送・オンライン申請(登記ねっと)すべて可能です。
申請が受理されれば、約1週間程度で登記が完了し、「履歴事項全部証明書(登記簿)」と「法人印鑑証明書」が取得できるようになります。
◆ ステップ⑦:税務署・自治体等に届出を行う
登記後は、各官公庁への手続きが必要です。これを忘れると罰則や損失につながるので注意!
提出先 | 提出書類 |
---|---|
税務署 | 法人設立届出書、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書 など |
都道府県税事務所・市役所 | 法人設立届出書 |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金の新規適用届、被保険者資格取得届 など(社員がいる場合) |
労働基準監督署 | 労働保険関係成立届、就業規則(従業員10名以上)など |
ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届、被保険者資格取得届 など |
コツ:書類は自治体や国税庁HPにあるPDFテンプレートを活用しよう。freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトにも自動作成機能がある。
【3. 自分で会社設立するメリット・デメリット】
◎ メリット:
- 設立費用を最小限にできる(10万円〜程度で済む)
- 法人化の仕組みを自分で理解でき、今後の運営に強くなる
- 書類作成や手続きを通じて経営者意識が身につく
△ デメリット:
- 手間がかかる(慣れない人で1〜2週間程度)
- 書類の不備・ミスで登記が遅れる可能性
- 許認可が必要な業種では、専門家の知識が不可欠な場合も
【まとめ】
自分で会社を設立することは、決して難しすぎることではありません。正しい流れを把握し、必要な書類を一つずつ丁寧に揃えていけば、手続きは完了します。
特にコストを抑えたい方や、設立を一つの“経験”として活かしたい方にとっては、非常に有意義な選択肢です。
ただし、時間や労力とのバランス、そして許認可の有無や税務の複雑さによっては、部分的に専門家の力を借りるのも一つの手です。